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里帰り [さ]

「里帰り」
 ある夏の日、嫁に行った娘・はるが帰ってきました。

 盆でも正月でもないのになんで帰ってきたのか、
 よく暇もらえたね、という父親に、
 
 「二度と向こうの家には帰らないつもりで黙って出てきた」

 と打ち明ける娘に対し、帰りなさい、好きで嫁いだんだから
 お前が我慢しないといけないよ、と諭します。
 夫はよくしてくれる。優しくしてくれるが、
 姑がイジワルでしょうがない、もう耐えられないと泣き崩れる。

 それでも、若いお前が我慢しないと、と帰そうとする父親に対し、
 それじゃあ姑を殺してもいいのね、それくらいもう耐えられないの、と娘。
 どんなにかひどい仕打ちを受けているのかと聞くと
 作った食事や日常の細々としたことが重なっているらしいことが分かると

 「殺してもいい。殺してもいいが、一年我慢してご近所さんを騙すんだよ。
 ご近所さんが、あああの嫁姑は仲がいいなぁと思わせてからでないと
 自分が警察に捕まっちゃうからいけないよ、
 でもどうしてもというならこの薬を持っておいき。・・・わかってるね、一年だよ」

 と、ご近所さんにもバレている仲の悪さを
 ウソでもいいから仲良しであるかのように見せてからでないと、と
 何とかなだめすかして、「薬」を持たせ娘を嫁ぎ先へ帰しました。

 一年後、はるがまた夏に帰郷しました。

 顔つきもよく、ご飯がおいしく太ったというはる。
 それで首尾よくご近所を騙せているかい?と聞いた父親に、

 「今日着てきた着物、お姑さんが縫ってくれたの。
 しばらく里帰りしていませんのでお暇をいただけないでしょうか、と言ったら
 一晩で反物から着物にこしらえてくれたのよ、帯もお姑さんがしめてくれて
 とても気持ちよくしまってんの」

 仲がよくなったんなら、じゃあそろそろ姑を・・・と父親が言うと、
 「去年帰ってからどうしてか優しくしてくれて、
 ご近所さんにも仲がよい嫁姑ね、なんて評判なのよ」
 あんなにいい姑は殺せない、という娘に驚く父親。

 そして、昨年渡した「薬」は必要ないからと返されたとき、
 あれは実はただの「うどん粉」であるとネタ晴らしをした父親は
 娘の顔つき、体重増加などから、もしかしておめでたではないかと気付きます。

 実は妊娠4ヶ月であることが分かったと報告をしながら、

 「でもお父さん、本当にお姑さんを殺していたら今ごろどうなっていたでしょうねぇ」
 「そりゃあ、手打ちだ」

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春風亭柳昇師の、創作落語のひとつです。
父親の、厳しいけれど優しいモノの言い方、
諭すような言い方がなんともいえないやわらかい雰囲気を感じます(*^-^*)

タグ:柳昇
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