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千早振る [た]

【千早振る】

 八五郎が隠居のところへやってくる。
 娘から投げかけられた百人一首の唄の意味を教えて、と言われたが
 自分は意味がわからない。でも分からないというと
 親としての威厳が保てないからご隠居さん、教えてください、と。

 ところがこの隠居も歌の意味を本当は知らない。
 知らないが、知らないというと隠居としても威厳が保てないので
 適当にはぐらかす隠居。

 「千早振るだろ?そうなると当然、神代も聞かず竜田川~と、こう来る。わかるね?
  するとどうだからくれないに、水くぐるとは~となる。どうだ、凄いだろう」
 「読み方なんかどうでもいいんですがね、歌の意味は教えてくれないんですかぃ」

 色々とめんどくさいことを八五郎に問いかけながら
 歌の意味を適当にしゃべりだす隠居。
 隠居が話す歌の意味は・・・

 竜田川という相撲取りがいた。強くなりたい、強くなりたいってんで
 断ち物をする。女を絶つんだ。そして5年が経って、
 立派な大関になったと思いなさい。
 立派になったのでそろそろ断ち物はいいだろうということで
 お客さんに誘われて吉原へ行った竜田川は、
 千早という絶世の美女の花魁に一目ぼれしてしまう。
 何とかおかみさんに頼んで一晩だけでも話がしたい。
 そう願ったが、千早は「あちきは相撲取りは嫌でありんす」(千早振る)
 千早がダメならと妹分の神代にも声をかけるが
 「姉さんの嫌なものはあちきも嫌でありんす~」(神代も聞かず竜田川)

 二人の女にいっぺんに振られてしまった竜田川は、
 もう相撲で強くなることなどどうでもよくなったので
 田舎へ帰って豆腐屋になった。実家が豆腐屋なんだそうだ。
 そこで5年が経過して、傾いた豆腐屋が景気良くなってきたころ、
 店先に一人の女乞食がやってくる。
 「三日三晩、何にも食べていません、その卯の花を少し分けてもらえませんか」
 すると快くおからをあげようとするがその際、女乞食の顔を見るってえと、
 5年前に自分を振った千早であった。
 このやろうってんで竜田川に肩をちょんと押された千早は
 ドーンと遠くに突き飛ばされる。(から〈おから〉くれないに)

 何もかもこれまでの自分が悪かったんだと、
 店先にある井戸に入水自殺をしてしまう。(水くぐる)

 ここまでしゃべって、違う話なのかと聞いていた八五郎が
 千早振るの唄の意味だと気づき驚く。そこで更に言う。

 「最後の とは の意味はなんです?」
 「ああ、これは千早の本名だ」(とは)


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サゲはいくつかあって、千早の本名だという場合と、
「よく調べたら千早の戒名だった」という場合があります。
どちらでも話の流れは変わらないし面白いのも変わりませんね。


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2008年7月23日 松丘亭寄席
2008年9月19日 らくだ亭

タグ:鯉昇
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