夢八 [や]
【夢八】
仕事の最中に夢を見てしまうため、仕事が長続きしないという八さんに
旦那が仕事を紹介してくれた。
「つり」の番をして欲しいということで、
「釣り」ならまあいいだろうと、八さんも引き受けた。
じゃあ行こうか、と連れて行かれたのは一軒の飲み屋。
そこのおかみさんに現場の様子を聞き、現場の鍵と、
頼んでおいた弁当を受け取って現場に向かった。
鍵を開けて入る現場は真っ暗で、
ロウソクを数本立てて、朝までここにいて欲しいと言われる。
弁当も全部食べちゃっていいし、ロウソクもつけっぱなしにしとけばいい。
眠ってしまわないように、木の棒で床をトントン叩き続けてれば
眠くもならずにいいだろうから・・・と旦那に言われ、
ちょっと怪訝に思いながらも明日の朝まで頼むよ、と一人にされる。
少しして、八さんは弁当を食べ始める。
同時に木の棒で床を叩き始めるが、部屋の隅のゴザが気になる。
ゴザの上から頭が見えるので声をかけてみると返事がない。
よく見るとゴザは床から浮いていて、表に回ってのぞくと
首を吊っていた。
驚く八さんは大騒ぎ。木の棒で床を叩いたり旦那さんを呼んだり
弁当を食べたり、首吊り遺体が目の前にあることに泣き叫んだり。
この様子を屋根の上から見ていた化け猫が、
首吊り遺体の足元で泣いている男の姿を見つけると
何かイタズラしてやろうと遺体に乗り移った。
「こんばんはー。陰気くさい夜ですね~伊勢参りの歌でも歌って~
歌わないとほっぺたねぶるよ~!」と脅され、
泣きながら伊勢参りの歌を歌い始める。歌のノリがよく、
乗り移った化け猫が遺体を動かしてリズムを取り始める。
ブラブラと首吊りの遺体が動き、終には縄が切れ、
八さんの目の前に遺体が落ちてくる。
これに驚いた八さんは、泡を吹いて倒れてしまった。
翌朝やってきた旦那とおかみさん。一晩中うるさくて~と言いながら
現場に入ると、なんと遺体と並んで横になっている八さんがいた。
また夢でも見てるんか!と八さんを起こすと伊勢参りの歌を歌いだした。
「伊勢参りの歌唄ってるがな。夢見てたんや~」
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2008年8月23日「米朝一門花形会」にて
桂雀々