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雛鍔 [は]

【雛鍔(ひなつば)】
 庭師が、あるお屋敷の庭木を手入れしていたところ、
 この家の坊ちゃまがやってくるので、木から下りろという。
 小さい子どもにかしずかなくちゃいけねぇのか、と思いながら
 一応木から下りてひざまずいて来訪を待つ。

 やってきた坊ちゃま。廊下を歩いていた時、敷居の隙間に
 挟まっていた5円銭を見つけ、手に取り、ジイにコレは何かと聞いてきた。

  
 が、この坊ちゃまには、この世に「銭」が存在しているなどという
 下世話なことは教えていないのだ。
 また小さいうちから「銭」を知り、「銭」をねだるようになっては
 将来困る、というので、ジイは頭をひねって、
 逆に坊ちゃまに何だと思うか、と尋ねた。

 すると坊ちゃまから帰って来た答えは・・・

 「丸くて真ん中に四角い穴が開いていて、
  表には文字、ウラには浪が彫ってあるから、
  これはきっとお雛様の刀の鍔だ!」

 ジイはしてやったりとばかりに喜び、
 「それは汚いものだからお捨ておきください」と言うと
 坊ちゃま、それをポ~ンと放り投げ、去っていった。
 後に残ったジイに、何歳なのかと聞いてみたところ、
 「お八歳である」という。

 これの一部始終を、帰宅後、家内に話して聞かせていると
 自分の息子もこれを聞いていて「銭をクレ」と早速せがんで来た。

 同じ八歳なのにこうも違うのかね!と嘆いたものの、
 何だかんだで銭を手にし出て行った息子。
 これと入れ違いに、庭師が出入りしている大店の主が、
 数日前に生じた、互いの間にできた誤解を解きにやってきた。

 ちょっとした手違いで、庭師として出入りできなくなったのだが
 もう来ねぇ!とタンカを切ってきたのはいいが気まずいと感じ
 謝りにいかないと、と思っていた亭主と、
 あれは誤解なんだと言いたかった大店の主は
 話し合いの末、誤解が解けた。そしてまたこの大店に
 出入りできるようになり喜んでいた頃、
 息子が「こーんなの拾った~」と叫んで帰ってきた。

 「丸くて真ん中に四角い穴が開いていて、
  表には文字、ウラには浪が彫ってあるから、
  これはきっとお雛様の刀の鍔だネ!」

 どこかで聞いたようなセリフをそっくりそのまま口に出した。
 これを聞いた大店の主は驚いた。
 子どものうちから「銭」を与えていないのかい?エライね、お前さん!
 ぼうず、お前は何てイイ子なんだろうと、お小遣いをくれようとするが、
 銭をお雛様のツバだという子どもに小遣いをやるなんてことできないと言い、
 ならば手習い用の筆や机、硯、墨を持ってきてくれることになった。

 これはありがたい、と頭を下げながら、
 「それはお雛様の刀のツバだから捨てておいで」と息子に言うが、
 ・・・ここがお屋敷の坊ちゃまと違うところ。
 
 「嫌だよ、これで焼き芋買うんだから」


タグ:三三
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